サイコロジック

 眠気を一気に吹き飛ばすような強烈な刺激だった。

 モクマの記憶はふつりと途切れていた。それはちょっと珍しくいい酒が手に入って飲みすぎたということもあったかもしれないし、相棒が深酒に付き合ってくれたので浮かれていたのかもしれない。よろつく足元をなんとか動かして、自室のベッドに倒れ込んだところまでは覚えている。けれどモクマには目の前で起こっている出来事がまるで理解できなかった。

 チェズレイの白く透き通るような肌が、あますところなく全てモクマの視界に晒されていた。途切れ途切れ小さな息を漏らし、モクマの体に跨りながらゆらゆらと揺れている。意図を持ってモクマが大きく動く度に、チェズレイの長い髪が触れてモクマの肌をくすぐった。堪えるようにきつく閉じたはずの唇は、刻むような振動を繰り返すごとに次第にほどけていき、赤い舌が濡れた唇の奥に見え隠れする。頼りない声が空にゆるゆると溶け、熱っぽいチェズレイの瞳がモクマを見つめた。繋いだ掌が汗でじっとりと滲んで今にも滑り落ちそうだ。

 モクマがチェズレイの名をぽそりと呼ぶ。なんですか、と言うようにこてんとチェズレイは首を傾けた。その瞬間モクマはなんだか堪らなくて、堪らなくなってしまって。再び彼の名を呼んだ。今度はもっと大きな声で。

 モクマは自分自身の声で目が覚めた。

 がばりとベッドの上に起き上がったモクマの全身は汗でびっしょりだった。顔を両手で覆って、ぐああ、だの、ぐおお、だの獣のような唸り声をあげる。脳内にちらついた光景にぶんぶんと頭を振って消し去ろうとするも、掠れた声の音とかしたたる汗の感触とか、細部に至るまで思い出してしまう始末だった。頭を抱えながらモクマはまたかと思った。


 またチェズレイの夢を見てしまった。


 多分おそらく間違いなく、モクマがこうなってしまった原因はあの夜にあった。世界征服を志すチェズレイに追従する形でモクマが一緒に行動するようになってもう半年が経つ。その間も程よく親交を深めた二人は、だから祝いと称して二人で飲むこともあれば、モクマがチェズレイにピアノの演奏をリクエストすることもあった。音楽にさほど詳しくないモクマでさえも、チェズレイの奏でる旋律が一流のプロにも劣らないことは分かる。それを惜しむことなくモクマの為だけに演奏してくれる二人だけの時間が、モクマはいっとう好きだった。

 ピアノを弾き終えたチェズレイがモクマの真向かいに座り、また酒を酌み交わす。手袋が外されたままのチェズレイの長い指が、モクマの目に留まった。どうやったらこの指をあんなにも滑らかに美しく動かすことが出来るのだろう。純粋な好奇心だった。触ってみたいなあと思った瞬間には、手が伸びていた。ぴたりとチェズレイが驚いたように動きを止めて、にも関わらずモクマはぱっと手を引くようなこともしなかった。流れるように手の甲をするりと撫でる。ふふ、とチェズレイが頬を緩ませて笑った。

「くすぐったいですよ」

 モクマにとっては雷に打たれたような衝撃だった。ぞくぞくと電流が背筋を駆け巡る。酒瓶が空になったのでおかわりをご用意いたしますね、とチェズレイがさらりと手を引いた後もモクマはしばらく動けなかった。テーブルの上にのったままの自分の手を見つめて、うぐ、と声を詰まらせる。どっどっと心臓の音がやけに早くうるさかった。

 これはあれだ。例えば近所で見つけた野良猫が、出会った当初は噛みつかんばかりに威嚇していたのに、何度も通ううちにやっと懐いてくれたという感動に近いものだ。モクマはそう自身に言い訳した。チェズレイは特に付き合う相手を選ぶ。その基準に何がどうして自分が引っかかったのかを訝ることはあっても、モクマは満更でもなかった。他には見せないような表情をチェズレイがする度に、特別感とか優越感とかいう気持ちがモクマの中にあったことは否定しない。でも、それだけだ。それだけのはずだったのだ。


 あられもない姿でチェズレイがモクマの夢に出てきたのはその晩のことだ。


 偶然、或いはたまたま。初めのうちはモクマも余裕だった。酔ったときにうっかりと手なんか握ってしまったから、直前の記憶が脳内で整理する前に残像として現れたもの。どうせもう見る事はないさと安易に笑い飛ばしていたモクマは、翌日に己の浅はかさを後悔することとなる。二夜連続夢の競演である。テレビドラマでもないのに。こんなこともあるとベッドの上で薄笑いを浮かべていたモクマは、まだそれが序の口であることを知る由もなく、三日、四日と言わず一週間その夢が続いた頃にはモクマの表情からすっかりと笑顔が消えていた。

 確かに、確かにチェズレイはとびっきりの美人さんだ。それは事実として認めよう。だか、これは違うだろうとモクマは思う。チェズレイはモクマにとって命の恩人でもある。もしも彼に会う事のないままであったら、モクマはきっと今この世にはいなかったし、若しくは例え生きていたとしても、無気力で無意味な人生を送っていたに違いない。チェズレイはモクマに生きる意味を与えてくれた訳では決してない。ただ、逃げなかった。優しさという理由をつけて、モクマから離れることはなかった。殺すために、殺すにふさわしいかどうか、モクマ自身と真剣に向き合ってくれた。それが心底、モクマは嬉しかった。モクマにとってチェズレイはかけがえのない人だ。大切な唯一無二の相棒だ。だからこそ絶対に違うとモクマは否定する。


 どこの世界に大事な相棒に欲情する馬鹿がいるのだ。


 などと理性的にもっともらしい理由づけをしたところで、改善の見込みがなければ意味もなく。最初の夜から数えて二週間、モクマの相棒による夢への出演は見事皆勤賞だった。しかも出番があるのはまだしも、いやまだしもとか言っている場合じゃないのは重々分かっちゃいるが、全くもって様々なヴァリエーションを用意して手厚くモクマをもてなしてくださる。場所は現在の拠点であるこの住まいの寝室はさることながら、リビングだのバスルームだのキッチンだの玄関だのやりたい放題だ。まだ外でいたすという状況がない分だけマシなのかもしれないけれど。だってそんなの見られたくないし、見せたくないし。いや違うそうじゃなくて。その上いわゆる体位だとかもご丁寧に日替わりだ。ついでに言えば昨日はモクマが後ろから攻めたてる体勢だった。顔が見えないのは酷く残念だが、汗ばんだ白い背中にチェズレイの肩甲骨が浮き出ているのはとても煽情的で、快感に耐えるように短い息遣いを続ける姿はなんか、こう、くるものがある。べろりとモクマの舌で骨と肉の境界を舐める度に、チェズレイがびくびくと震えるのは今思い出しても最高だった。いや、違う。だから違うんだって。モクマは大きくのけぞった。

 まだ枯れるような年齢ではないにしても、モクマはここ数十年の間、極端に人との関わりを避けてきた。故に友愛以上の関係を誰かと結ぶこともなく、そういった欲求も次第に薄れていっていたはずだ。だというのに、今はどうだ。シャワーから降り注ぐ冷水を浴びながら、モクマは考える。

 最近は特に駄目だった。夢の中でモクマがどういった行動をして、それにチェズレイがどんな反応を示したのか。お互いの荒い息遣いなんかまでモクマは鮮明に覚えていて、ふとした瞬間に思い出してしまうのがまた厄介だった。チェズレイの顔がまともに見られなくなった。目を合わせただけで、モクマがチェズレイを組み敷いていた映像が蘇り、いたたまれなくなって目を逸らす。気持ちのうえで整理がつかないというならまだ良いほうで、問題は更に深刻だ。チェズレイが髪を結いあげた際に見せるうなじだとか、話をしている最中に動かす唇の動きだとか。そういった些細なものに、モクマの身体が迂闊にも反応するようになってしまった。その度にモクマは慌ててバスルームに逃げ込んで、冷たい水をかぶってそれこそ無意識に昂った体と頭を何とか鎮めるのだ。まずい。これは本格的にまずい。

 何だってこんな。周回遅れの思春期かと、モクマはいよいよ泣きたくなった。流石に朝起きて下着を汚していたという最悪の事態は避けていたが、これはもう時間の問題のような気がする。「最近随分と綺麗好きになりましたねぇ。体を常に清潔に保つことは大変喜ばしいことです」と呑気に語るチェズレイには、絶対に知られたくない。知られてはならない。

 けれどいくら肉体に鞭打つことに慣れているモクマであっても、心や精神まで簡単に鍛えられるかというとそうでもなく。割と早い段階で、モクマはあっさりと音を上げた。もはやこの悩みを一人で抱えていることも出来ずに、とにかく誰かに話したかった。

 誰かに相談するといっても実際のところそれなりに基準は存在する。非常にデリケートな問題であるが為に、相手は慎重に選ばなくてはならない。同年代の知人友人には何となく相談しにくかった。放浪癖があると思われているモクマは、結果的にこまめに自分の消息を伝えることもしてこなかったので、久しぶりに連絡をとったうえでこんな情けない話をするのはいくらなんでも躊躇われる。そもそもチェズレイの組織の一員として活躍するモクマは今や世界中を飛び回り、決して足取りを残さないようにしている。だから近況を報告出来るような相手は限られ、つまりおのずと決まってくる。

「モクマさん。お久しぶりです!」
「やあ、ルーク。久しぶりだねえ。元気にやってる?」
「はい。仕事は忙しいですが、それなりに」

 リビングのテーブルの上に立てかけたタブレットの画面に、いかにも誠実そうな青年の姿が映る。相手が嬉しそうに話しかけると、呼応するようにモクマも笑顔になる。

 結論としてモクマが選んだのは、かつてチームとしてミカグラ島を救う為に共闘したルーク・ウィリアムズだった。同じ理由でアーロンという選択肢も頭には浮かんだが、なんせ敏い男だ。モクマの話を聞いたらすぐに相手がチェズレイだと気づいてしまうだろうし、力量を認めつつもお互いの存在をなんとなく煙たがっている二人だ。アーロンがモクマの話を聞くことは万が一あっても、おそらく途中で電話を切られてしまうだろう。ありありと目に浮かぶ光景だ。

「モクマさんの方はどうですか?……何だか顔色が悪いようですが」
「そんなことないよ、と言いたいところなんだけどねえ。やっぱり分かっちゃう?」
「何かあったんですか?」

 ルークが深刻そうに表情を曇らせたので、タブレットに向かってモクマはたいしたことじゃないんだけど、と慌てて否定する。モクマのことを真剣に案じてくれるルークに今更ながら感動し、本当に良い子だよなあと胸の内で褒める。こんな良い子を巻き込むのは気が引けるが、それなら最初から連絡をとろうだなんて考えない。初めからモクマはルークの優しさに付け込むつもりなのだから。

「最近どうにもこうにも夢見が悪くて」
「夢……ですか」
「一日だけならまだしも、毎晩毎晩見ちゃうもんだからさあ。一旦起きちゃうとなんとなく二度寝も出来なくて。ここんとこそれで寝不足だから、顔に出ているのかもしれない」
「それは心配ですね」
「延々と変わり映えのない夢で、しかも同じ人がずっと出てくるの。おじさんこんなこと初めてだから、ちと困っちゃって……」

 語尾がちょっとばかし情けない声音になったが、ルークは気にも留めずにふむ、と考え込んでいる。真剣に自分のことで悩んでくれるルークの姿に、モクマの気持ちは少しだけ軽くなる。

「ごめんね、変な話を聞かせて」

 実際モクマはルークに問題を解決してほしいだとか、何とかしてほしいなどという気持ちは一切無かった。内容が内容だけに、簡単にどうにか出来ることならモクマはとっくにそうしている。とりあえずこの話はお終いにして、ルークの近況を聞かせてよとモクマが話題を変えようとした矢先だった。

「そういうことなら僕より、チェズレイに相談した方が良いと思いますが」

 チェズレイという単語に、モクマはぎくりとした。

「ミカグラ島に滞在していた時に実は僕も夢見が悪くて、そのことでチェズレイに相談していたんです。確か退行催眠とか言ってたかな。劇的に変化があったわけではないですけれど、解決のきっかけにはなりましたので」

 いやいやいや。流石にそれは出来ない。出来ないんだよルーク、と必死にモクマは胸中でルークに語りかける。モクマの夢に毎晩出てくる人間というのがチェズレイであって、そんな彼にモクマは人に説明するのも憚れるようなあれこれをやらかしているのである。チェズレイに相談するなど、およそ現実的とは言えない。何をどうやって説明していいかモクマには皆目見当もつかないのに。

 少しばかりモクマは誰かに弱音を吐きたかっただけなのだ。ルークを巻き込んでしまったことについて、今更ながら罪悪感に胸がちくりと痛み始める。お詫びにこれから行く先々で美味しい食べ物でも見つけたら、可能な限りルークに送ってやろう。

「そういうことらしいから、チェズレイ。君もモクマさんの話を聞いてやってくれないか?」

 何気ないルークの台詞に、モクマの心臓が凍った。

 チェズレイが今日は一日中外出の予定があることをモクマは知っていたし、念には念をいれて住居内に人一人いないことを徹底的に確認したはずだ。それなのに画面内のルークは、モクマの肩越しに視線を向けている。思わず背筋がぞくりと震えた。

「ボス、お久しぶりです」
「久しぶり、って言っても君とは数日前に話したばかりだけどね」
「おや。本音としては、私はいつだってボスとこうしてお話していたいのですよ。時間の許す限りは」

 モクマの背後にじわじわと人の気配が近づいてくる。声が聞こえた時点で事実は確定となり、モクマは吃驚しすぎて指一本動かすことも出来ない。二人の会話から推察するに、どうやらチェズレイはモクマがルークに悩み事を打ち明けたあたりから既に室内にいたようだ。会話に夢中になっていたモクマが、さっぱり気づかなかっただけで。

「ですがボス、今日のところはお喋りは取りやめにしましょう。私はこれから一刻も早く、モクマさんから詳しく話をおうかがいしたいので」


 ちょっと待って。


「うん、そうだな。そうした方が良い。僕なんかより君のほうがきっとモクマさんの悩みを解決するのに適任だ」


 待って。


「かしこまりました、ボス。では、申し訳ありませんが今日はこれで」
「ああ、また都合があえばその時に。いい報告を期待してるよ」

 モクマ抜きであれよあれよと二人の会話は進み、無情にもすぱりと回線は切れ、ほどなくタブレットの画面が真っ暗になった。途中からモクマは一切発言出来ずに、石のように固まったままだ。チェズレイはそんなモクマに視線を向けて、深く溜息をつく。

「最近やけにこそこそしているから、おかしいとは薄々感づいていたんですよ、モクマさん。あなた、よもや私に隠し事が出来るとお思いでしたか?」

 正直思っていた。見つかっても何とか誤魔化せるだろうという甘すぎる目論見はモクマの中に確かにあった。

「時にモクマさん。あなたはご自分から悩みを自白するのと、強制的に私に自白させられるのとは、どちらがお好みです?」

 顔面蒼白のまま、そういえば夢の中では自白強要プレイはいかにもありそうなのにしてなかったなあ、などと考えモクマは、容赦ないチェズレイの言葉に盛大に肩を落とした。


***


 人生ゲームやギャンブルに例えるのなら、ほぼ負けが確定している所謂「詰み」の状態である。いくらここから起死回生の挽回を目指そうとも、辛うじて命が助かれば御の字程度の希望しか持てない。向かい合う形でモクマの正面に座ったチェズレイから冷たく蔑むような視線を一身に受けたモクマは、いよいよ覚悟を決めた。

「それではモクマさん。話していただけますね」

 有無を言わさぬ口調だ。今回の件は殊更モクマの部が悪い。ちらりと盗み見たチェズレイの顔は、やっぱり綺麗で、そして美人であるが故に凄みがあって死ぬほど怖い。そりゃあ怒るよなあとモクマは妙に納得する。なんといってもチェズレイはモクマのたった一人の相棒で、それはチェズレイにとっても同様なのだ。

 そんな大切な相棒が不可解な行動をとっていたらどうするだろう。逆の立場でモクマは考える。きっとすぐにでも追及したい気持ちが湧き上がってくるが、ぐっと堪えてしばらくの間は様子を見守るだろう。いつも通りに振る舞って、何食わぬ顔をして。そして期待するのだ。最後の最後には相棒である自分を必ず頼ってくれるだろうと。モクマだったら間違いなくそうした。

 なのにモクマのしたことといったら。四六時中一緒にいるチェズレイを差し置いて、遠く離れたルークにその悩みを打ち明けたのだ。しかも、チェズレイから逃げるように必死に隠して。とうとう痺れを切らして踏み込んだチェズレイの気持ちや憤りが、モクマには手に取るように分かる。

「モクマさん?」

 いずれにせよ、こういう事態に陥った以上モクマに道は残されてはいないのだ。モクマは膝の上で作った握りこぶしをさらに強めて、諦念の面持ちで頭をあげた。

 ええい、ままよ。もうどうにでもなれ。なんとか寺から飛び降りる気持ちで、モクマは賽をぶん投げる。どんな目が出るのかは誰にも、モクマですらも分からない。

「ほとんど聞かれてるとは思うけど……その……最近になって、おかしな夢を見るようになって」
「ああ、先ほどボスにもそのように申し上げておりましたね。毎晩同じような夢を見る、と。一体どのような内容だったんです?」
「……かなり、言いにくいんだけど」
「はい」
「…………ど、同衾する夢で」

 迷った挙句に選んだ言葉の情けなさと言ったら!同衾、という台詞をモクマの後を追うように呟いたチェズレイは、ああ、性交渉のことですね、とあっさりと翻訳してくださる。モクマが折角オブラートに包んだというのにこうも淡々と、と少々非難めいた顔を作りチェズレイを見やる。が、そこにあったのは、何とも言えない憐みの感情を瞳に宿していたチェズレイの姿だった。

「モクマさん。それは誰しもが通る生理現象のうちの一つにすぎません。だからそんなに恥ずかしがる必要はないんですよ」

 なんだこれ。なんなのこれ。

 モクマは今すぐにでも消え入りたい衝動に駆られた。向けるチェズレイの視線が、いかがわしい本を少年の自室で見つけて気にするなと諭す母親のようである。モクマはこの雰囲気に耐えきれず、懸命に唇を引き結んでいないと思わず発狂しそうだった。

「それで、相手は誰だったんです?」
「あー……それもやっぱり言わなきゃダメ?」
「当たり前でしょう。原因を教えていただけなくては、こちらも対策の施しようがありません」

 チェズレイの言葉にモクマはうっかりと感動しそうになる。モクマが一体何に悩み、何を恐れているのかを知らないチェズレイは、ただただ相棒の悩みを聞き出し、何なら解決の手助けぐらいはしてやろうという気持ちなのだろう。それはモクマを純粋に心配しているだけで、他に何の他意もない。後ろめたい気持ちがあるのはモクマだけで、根本的に悪いのもモクマだけだった。

「…………レイと」
「声が小さくて聞き取れませんよ」
「……だから、相手はチェズレイ。お前さんだよ」

 腹を括って放ったモクマの言葉に、チェズレイは目を丸めてきょとんとしている。まあ、そういう反応になるよなあ、とモクマはどこか冷静なままに考えを巡らせた。

 さて、これからどうしよう。とうとう白状してしまったと後悔する気持ちは無論あるが、そこで思考停止してはならない。大切なのはいつだってこれからどうするかという一点のみだ。

 流石に一時の感情に焦点を当てて、相棒を解消するという判断をチェズレイが下すことはないと思いたい。これまで二人で積み上げてきたものを鑑みるに、例え相棒が自分のことを性的対象にして幻の中で夜な夜な組み敷いていたとしても、それが夢であり実現に至るという事態が起こらない限りは、チェズレイがモクマを簡単に手離すことは難しいだろう。

 それでもチェズレイが嫌悪感を覚えるなら、今までのように一緒に住むのではなく、モクマだけ別に住居を構えるというのが妥当な選択だ。必要以上に会わなくても、相棒としての責務は十分に果たせる。そしてモクマはただ信じるしかない。二人の間に存在する絆が確かなものであることを。時間がかかろうとも、必ず元の二人の関係に戻れることを。

 その頃にはきっとモクマもチェズレイとの夢を見ることもなくなっているだろう。

「モクマさん」

 とモクマが熟考している間に、チェズレイもチェズレイなりに考えをまとめたらしい。体を強張らせていたチェズレイは、すっかり普段通りに戻っていた。まずは、チェズレイの意見を聞くのが先だとモクマは考える。今考えていたものはあくまでモクマの希望であって、それはチェズレイの意思に優先しないのだ。無理やり説得してどうこうする問題ではないし、チェズレイがどうしても受け入れられないなら、モクマは彼の前から姿を消す。それくらい覚悟あっての告白だった。

「話は一通り分かりました。私で宜しければ、是非お付き合いしましょう」
「…………へ?」

 唖然とするモクマに、チェズレイはあからさまに肩を竦める。

「モクマさんの為に私がひと肌脱ぎます、と申しあげているんですよ」


***


 正直展開が早すぎてモクマはついていくのがやっとだったし、実際のところは現実にもうとうに振り落とされてしまっているのかもしれない。モクマはベッドの端に腰をかけて、膝に肘をかけながら両手を顔の前で組んでいた。落ち着かない様子で体を小刻みに揺らしている理由はひとえに、モクマが今いる場所によるものだ。普段ならば絶対に他人が訪れることはない、自分ですら滅多に入らないチェズレイの部屋にモクマはいた。

 チェズレイによる謎の宣言の直後、モクマは半強制的にバスルームに追いやられた。水風呂でも入って頭を冷やせということか、と冷水を浴びることが日常になりつつあったモクマはそう思い至ったが、長風呂はご遠慮くださいねというチェズレイの台詞から考察するとどうやら違うらしい。訳もわからないまま軽く風呂を済ませると、脱衣場からモクマの服が忽然と消えており、代わりに置いてあったのが今モクマの着ている何故かサイズがぴったりの白いバスローブだった。

 他に着るものもないので仕方なく身につけてバスルームから出ると、待ち構えていたチェズレイに捕まってこの部屋に閉じ込められた。だがモクマは、腐っても忍者である。脱出しようものならいくらでも手段は思いつくが、逃げたどうなるかお分かりですよねモクマさん、とチェズレイは釘を刺すことも忘れなかった。分からん、とモクマは呟いた。逃げたらどうなるかも、逃げなければどうなってしまうのかも。もはやモクマの頭はオーバーヒートしかけていて、何一つ思考がまとまらない。

 カチャリ、と物音が聞こえてそれが部屋のドアノブを開けたものだとモクマは気づく。ルークと話すために人払いを徹底していた為に、それ以前にここは彼の部屋にあるのだから、チェズレイが現れて当然だが。その姿を一瞥し、モクマは絶句した。

 チェズレイは何故か当然のように湯上がり姿になっていて、モクマとはサイズ違いのしかしお揃いのバスローブを着ている。モクマの心臓がどくりと跳ね上がった。ぱっと目を引き剥がして、刺繍の模様が施された絨毯をモクマは睨みつける。

 とすり、とモクマの隣にチェズレイが座る気配を感じた。近い、近すぎる。熱のこもった体温が触れてもいないくせにこちらに伝わって来るようで、モクマは耐えるように目をがっちりと閉じた。

 分かった。これは夢なのだ。きっとモクマがチェズレイを夢の中で手籠めにしていると白状した時に、モクマはもしかしたら一発もらって気絶しているのかしれない。或いは都合の良い幻を見るように操られている。そうとしか考えられない状況だった。そしてチェズレイはまだモクマが自分の相棒としての資格があるのかどうかを試している。…………うん。それにしては空気感が生々しすぎるし、どう考えてもモクマ現実逃避なのだけれど。

 チェズレイが舐めるような視線でモクマを見ているのが、閉じた視界の奥にでも分かった。それでもモクマは頑として瞼を持ち上げず、両者無言の時間だけが過ぎていった。

 ふと、近隣に感じていたチェズレイの気配が遠ざかる。僅かにほっとしたのも束の間、モクマの首が締まる。チェズレイに首根っこを掴まれて引っ張られていると気づいたのは、勢いよく後ろに倒れ込む寸前で。モクマは慌てて首元からチェズレイの手を解き、器用に体を翻す。

 モクマの目にチェズレイの顔が真正面に映る。図らずとも、モクマがチェズレイを押し倒したような構図だった。まるでモクマの夢の中の光景を再現しているかのように。

 モクマより背の高いチェズレイをモクマが見上げることはあっても、こうやって同じ目線で見つめ合うのは珍しい。チェズレイがモクマに向かって緩く微笑む。モクマの胸がかっと熱くなった。

 ここまでされれば流石にモクマだって、チェズレイが何をしようとしているのか分かる。正気かとモクマは考え、けれど自分自身もとっくに正気を失っていることについ嗤ってしまいそうになる。

「いつまでそうしているおつもりですか?」

 チェズレイの姿を目に留めて動けないモクマの頬に、チェズレイの指先が当てられた。

「モクマさんのお好きなようにしてくださって構いませんよ」

 モクマはまるで銃口を頭に突きつけられ、そのまま軽音を立てて脳を撃ち抜かれた気分だった。



 どれくらいまでなら許されるだろう、とモクマは思案して、チェズレイが許さないと拒否する程度まで押し進めてやろうと心に決める。モクマの理性は完膚なきまでに粉砕されて、目の前にいるチェズレイだけに完全に思考が持っていかれる。口付けても良いだろうか、とじりじりと顔を近づけても、チェズレイは決して背けない。唇が触れる間際になって、あたかもそうするのが当然のようにチェズレイは目を閉じた。モクマも同様に視界を閉じて唇を押し当てる。嫌がっていないのを確認して、もう一度。啄むように、その後は何度も。

 チェズレイの唇は僅かに震えていたし、それはもしかしてモクマも同じだったかもしれない。チェズレイの体から無意識に力が抜けて、薄く開いた口の奥にちらりと濡れた舌が見える。誘蛾灯に誘われるようにモクマは、チェズレイの口に舌を送り込んだ。奥に逃げる彼を捕まえて、執拗以上に嬲る。苦しげにくぐもった声が聞こえたが、構わずにモクマはチェズレイを追い立てる。彼の体から覚えのあるボディソープの香りが鼻を掠めた。

 唾を流し入れてチェズレイが全て飲み込むまで、モクマはチェズレイの口を塞ぎ続ける。喉に嚥下する振動が止まり、それを合図にようやく離れるとモクマの下でチェズレイはぐったりとしていた。荒く小さく息を乱して、恍惚の表情でモクマを見上げる。とろけきった無防備な顔に、モクマの熱が下腹部に集中していくのが分かった。

 肌ざわりの良いバスローブ越しに、チェズレイの形を確かめる。肩から腕へ、もう一方は胸から腰に。モクマの顔をチェズレイの肩口に埋めて、白い頸に音を立てて吸い付く。何度も何度も、顔をあげてチェズレイが嫌がるそぶりを見せていないか確かめて、再び触れていく。次第に奥に。

「…っ…モクマさ…」

 バスローブの隙間から手を差し込んで、胸に触れた時に初めて、焦れたようにチェズレイがモクマの名を呼んだ。今までモクマのされるがままでいたチェズレイの両腕がゆっくりと持ち上がると、モクマの首に静かにかかる。


 その瞬間、凄まじい衝動がモクマの身体を突き抜けた。


 チェズレイを全て自分のものにしてしまいたい。モクマの脳を占めていたのはそれだけだった。


 夢の中であったように、チェズレイの全てを暴いてめちゃくちゃに乱してやりたい。過ぎる快楽にぽろりと零す涙を、モクマの舌で拭ってやりたい。声にならない言葉すらも聞くことが出来るのはモクマだけで、口で塞いで腹の底まで飲み込んでしまいたい。ぴったりと隙間なく身体をくっつけあって、快感に啼くチェズレイを攻め立てて、モクマの熱い楔で一気に奥まで貫いて、それから。


 それから、どうするのだ。


 モクマは自由自在に動かしていた身体を唐突に止めた。息を詰めて、じいっとチェズレイの姿をモクマは視界の中に捕らえる。モクマの様子に気づいたチェズレイも、不思議そうに首を傾げてモクマを見つめている。モクマの何をも疑っていないその瞳に、モクマの思考は急激に冷めた。

 ゆっくりと身体を起こしたモクマは、まだ力の抜けているチェズレイの身体を持ち上げて同じようにベッドの上に座らせる。乱れたバスローブを整えて、モクマはチェズレイから距離をとって正座をする。そのまま俯いて動かないモクマを前に、チェズレイはようやく意識を取り戻したようだ。

「モクマさん、これは一体どういうことですか?」
「すまん。お前さんが折角俺のためにここまでしてくれたっていうのに、これ以上はやっぱり出来ない」
「…………モクマさんが謝罪する意味が良く分からないのですが」
 チェズレイがモクマのことを心から信頼してくれているのは分かる。出会った当初はともかく、過去に手酷い裏切り受け、傷ついたチェズレイだ。そんな彼がモクマのことだけは何があっても信じ切ってくれることをモクマは知っている。それがチェズレイにとってどれほど意味があるのかということも。

 モクマが本気で望めば、チェズレイは可能な限りその期待に応えようとするだろう。体を重ねることも、彼にとっては大切な相棒がそれを望むなら、と。意味も価値も与えることなく、ただモクマを傍に置いておく一つの選択肢として存在するだけで、簡単に選んでしまう。選べてしまう。


 チェズレイがモクマの為にそこまでしてくれるのは正直嬉しい。嬉しいけれど。


 そのことを何故か、むなしい、と。モクマは一方で思ってしまった。


 チェズレイがここまで付き合ってくれたのならもう十分だと、モクマはいっそ清々しい気分だった。今の出来事もちょっとした夢や幻だったということにして、飲み込んで、きっとちょっとした記憶の一部になっていく。忘れてしまったら、それはそれで良い。それくらいが丁度良い。

「こういうことは、お前さんが本当に心から好きだと思う人としてくれ」

 モクマが口にしたのは至極当然の台詞だった。あまりにも普通すぎて、モクマも、きっとチェズレイですらも忘れてしまっていた言葉。けれど何かを終わらせるには、うってつけの。チェズレイの肩に両手を乗せて、精一杯の作り笑顔でモクマは言った。全て終わりだ。全部これで。

 けれどモクマは完全に失念していたのだ。モクマが何事かを己の中だけで決着させようとしても、それを覆すのがチェズレイであると。モクマの深層心理を完璧に見抜いて、自分の身体を張ってでも自覚させるのがチェズレイのやり方であると。

「ですが、モクマさんは私のことがお好きなんですよね?」
「…………は?」

 飛躍したチェズレイの言葉に、モクマは呼吸を止めかけた。あまりにも場違いで耳を疑うような台詞に、モクマは本気で混乱しかける。思わず凝視したチェズレイの表情に冗談を言っている様子は微塵も感じられない。

「ちょっと待って。一体何だってそんな突拍子もない話になるんだ」
「何故って。モクマさんが夢に見るまで私のことが好きで、私が好きだからこういうことがしたくて、それでどうにかしてほしいというのがご相談の内容でしたよね?」


 馬鹿な。そんなはずは。


 反論しようとした言葉は、しかし声にならずにモクマの中で掻き消えた。モクマの脳内で一字一句チェズレイの言葉が繰り返される。好き?誰が誰を。ああ、俺がチェズレイのことを好きだと彼は言っているのか。そうか、好きだから。………好きだから?

 あれ?とモクマは思った。あれあれ?とモクマは狼狽えた。モクマがチェズレイのことを好きだから、という言葉を瞬発的に否定していたくせ、妙にしっくり胸に馴染む。成程確かに辻褄は合う、とモクマは考える。モクマはチェズレイのことが好きだから、好きすぎて夢にまで見て、本当は現実のチェズレイともそういうことがしたくて堪らなくて、でもいざそういう場面になったら心のないまま体を繋げることが辛くて、臆してしまって。


 モクマがチェズレイを好きなように。


 チェズレイにもモクマのことを好きでいてほしくて。


「…………モクマさん」
「言わんでいい。自分で分かってるから」
「耳まで真っ赤になってますよ」

 だから口にしなくてもいいと言ったのに!チェズレイから手を離したモクマは、そのままとっさに顔を隠した。嘘だろう、とモクマは羞恥心で死にたくなった。何故こんな単純なことに気づけなかったのだろう。どうして夢の原因はあの夜にあると分かっていたのに、モクマ自身の心には耳を傾けなかったのだろう。答えはこんなにも近くにあったのに。

 チェズレイよりもモクマは一回り以上年上だというのに、逆に指南を受けるなんて。これじゃあ本当に思春期みたいじゃないか。まさか、本気で今の今まで気づいていなかったんですか?とチェズレイは呆れ口調だ。重ねた年齢の分だけ変に経験を積んで、肝心なところがまるで成長出来ていなかったモクマは、本当に自覚がなかったのだ。

「モクマさん、私ね。この間の夜にモクマさんが私の手に直に触れた時、とてもくすぐったくて恥ずかしくて。でも嬉しかったんですよ。夜眠る前に、ベッドの中で自分の手を見つめて思い出して、ついつい頬が緩んでしまうくらいには」
「…………」
「ここ最近モクマさんの様子がおかしいことに、もちろん心配はしていましたけれど。それ以上に怒りの方が強かった。何故、私には打ち明けてくれないのだろう。私には相談出来ない悩みなのかと。怒って、それがどうしても悲しくて。けれど蓋を開けてみたらモクマさんは、私の夢を見て、私のことで悩んで、ずっと私のことばかり考えていたと教えてくれたではありませんか」


 そっとチェズレイがモクマの手を取る。覆っていたものが無くなって、モクマの視界全てにチェズレイの顔が映る。

「あんなふうに触っておいて、あんな瞳で見つめておいて。私のことでいつも頭がいっぱいで、それでも私のことを好きじゃないなんて言わせませんよ」

   違いますか?との質問に、モクマは違わないと肯く。

 多分あの夜、モクマがチェズレイに手を伸ばした時に、既に賽は投げられていたのだ。それはチェズレイも同様で、そして偶然のように奇跡のように、当然のように互いに同じ目が出た。それをモクマはただただ認められずに無駄な抵抗を繰り返していたのだ。自分の気持ちが本物だったから。本気で好きだから、その気持ちでチェズレイを困らせたくなかった。


 モクマはチェズレイのことが堪らないくらい好きで、好きで、大好きで。こんなのどうしたって、恋だった。


「……チェズレイ……ごめん。おじさんどうも、お前さんのことが好きみたいで……」
「余分な言葉が多いですねえ、モクマさん。そういった台詞は手短に、かつ簡潔にお願いします」
「好きです。俺と付き合ってください」

 チェズレイの手を握り返して、モクマはつたない愛の言葉を告げる。大の大人が口にする台詞にしては幼すぎると分かっていたが、それでも受け取ったチェズレイは嬉しそうだ。

「私で宜しければ、是非お付き合いしましょう」
「…………私で、じゃなくてチェズレイが良いんだ」
「口説き文句がお上手になりましたね。けれど、それは私にだけにしておいてください」

 そう言って破顔するチェズレイの姿に、モクマの胸が熱いものでいっぱいになる。


 これまでの悩みや迷いを一気に吹き飛ばすような、強烈な笑顔だった。


 知りたかったとモクマは心の底から後悔した。賽を投げた後のチェズレイがどんな様子だったのか、どんな表情でモクマを想っていたのか。隣で確かめていたかった。モクマが目を逸らして立ち止まっている間、チェズレイはその恋をじっくりと味わっていたのだろう。モクマを見つめ続けることだけは決して止めずに。考えて考えすぎて動けなくなるのは、モクマの悪い癖だった。

「お互いの気持ちも確かめ合ったことですし。さて、モクマさん」

 モクマからするりと手を抜き取ったチェズレイが、モクマを見上げるように体を傾けて、意味深な笑みを浮かべる。う、駄目。もう何をしても可愛く見えるという自身の気持ちを正直に認めたモクマに、チェズレイはさらに追い打ちをかける。

「続き、しません?」
「する」

 即答だった。だって見たい。チェズレイがモクマのことをずっと見ていたように、モクマだってチェズレイを。胸にじんわりとあたたかい波が広がって勢いのままに抱きつくと、随分と情熱的ですねとチェズレイがくすりと笑う。進んでいくのだ。何もかもを二人で。私の夢はあなたの夢であり、モクマさんの夢も私の夢であることをどうかお忘れなく。チェズレイの言葉は当然のようにモクマを縛り、それがきっと永遠の約束になっていくのだろう。





 後日、ようやく連日連夜の悩ましい夢から解放されたモクマがチェズレイの部屋の中で見つけたのは、どうもモクマと初めてを迎える為に準備したらしいあやしいアレコレであった。終始余裕そうに見えていた彼も、内心不安と緊張で入り乱れていたのではないかと思い至ったモクマは、愛おしさがこみ上げつつも「これ、どういうルートで手に入れたの?」と嫌がって中々口を割らないチェズレイに意地悪く問い詰めるあたりは、やっぱりどうしたってお似合いの二人だった。



 つまるところの約束事項は、賽を投げたら出た数、進め。




サイコロ+ロジック。サイコロ論理。

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